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食糧の豊富な森での生存競争に破れたにしろ、好奇心からにしろ、いずれにしても森から離れ草原に出たサルがヒトへと進化し飢餓を克服して生存を維持することができたのは、余分なエネルギーが生じたならすかさずそれを体脂肪として体に蓄えるという優れた能力、すなわち「太る」という能力を身につけることができたからであり、その体脂肪の備蓄があることによってヒトの活動範囲は拡がったのでした。
だからこそ脂肪は、たんぱく質や炭水化物と並びヒトの生存にとっては欠かすことのできない三大栄養素の一つなのであり、ヒトとして生きている限り、「太る」ということは全く自然な生理現象であり、むしろ痩せるということは生存を否定する不自然なことであると言うことができます。
もっぱら体重を減らすことを目的になされるような勘違い‘ダイエット’の一環として、食物を摂取しないようなことをして自らを‘飢餓’状態に追い込めば追い込む程、ヒトは却って太ろうとするのであり、そのような間違った‘ダイエット’をすればする程、太る体質を形成しているのだということを認識すべきでしょう。
(初出2000.11.09)
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| 痩せるメカニズム──レプチン効果 |
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既に述べた通り、ヒトという生物にとって「太る」ことは自然な生理現象です(注)が、しかし際限なく太り続けるわけではありません。
ギネスブックによると最重量の体重の世界記録は635kgだそうですが、その彼も減量の世界記録も持っていて、419kg減量して一時期だいたい元大関の小錦と同じ位の216kgになったそうです。
ヒトの身体は普通は太り過ぎれば、自動的に痩せる機能を働かせています。それが「レプチン効果」と言われるものです。「レプチン」は1994年に発見されたばかりの一種のホルモンですが、すべての人間の身体が発生させている食欲抑制情報を伝達する物質、すなわち‘食欲抑制ホルモン’です。
そのメカニズムを説明すると──
1)食事で摂った栄養が余ると中性脂肪となって血液中に流れる。
2)脂肪細胞はこの中性脂肪をどんどん取り込む(太って備蓄する機能──この役割を担うのが脂肪細胞の内の「白色脂肪細胞」)。
3)ある程度溜まってくるとレプチンを発生させる。このレプチンは「もう食べなくても良い!」というシグナル。
4)この脂肪細胞からレプチンが血液中に流れ出すと、脳の中で食欲やエネルギーを司る視床下部に届く。
5)レプチンを受け取った視床下部は、「もう食べなくても良い!もっと動け!」と身体に指令を発する。
6)すると無意識の内に食欲が落ち、しかも活動が活発になり、どんどんエネルギーをさらに使うようになる(この時、比喩的な表現として“脂肪燃焼” ──熱産生させる役割を担うのが「褐色脂肪細胞」)。
7)こうして脂肪が減り、痩せて行く。 (下図参照)
| ┌ |
──→[視床下部] |
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↓ |
摂食量減少 |
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├ |
──→((褐色脂肪細胞))─→熱産生 |
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レプチン |
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脂肪 |
| ↑ |
分泌 |
↓ |
分解 |
| └ |
──((白色脂肪細胞))←蓄積・中性脂肪←食物摂取 |
| 図:レプチンの作用 |
繰り返しますが、このレプチンという物質はすべての人が身体に持っているそうです。ところがこの「レプチン」効果が発揮されず、思うように痩せることができず肥満に悩んでいる人が多い実態があるのはどうしてなのでしょうか?
人によってレプチンの量に違いがあり、少ない人は肥満してしまうのでしょうか?実はその逆で、肥満している人は、レプチン過多の傾向にあるそうです。
(注)
「太る生物としてのヒト」
NHKテレビ『ためしてガッテン』「わかってスッキリ!体脂肪の新常識」(2001.1.10放送)参照。
参考:
蒲原聖可『肥満とダイエットの遺伝学──遺伝子が決める食欲と体質』(朝日新書)
『肥満遺伝子──肥満のナゾが解けた!』講談社ブルーバックス
『ヒトはなぜ肥満になるのか』岩波科学ライブラリー
『図解雑学 なぜ太るのかやせるのか』ナツメ社図解雑学シリーズ
(初出:2001.1.12)
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そもそも「肥満」しているとは、単に体重が重いということではなく、体脂肪が標準以上に体に付いていることです。
脂肪細胞は、過剰エネルギーの“貯蔵庫”という役割を果たし、従って脂肪細胞が肥大化すれば体型に影響し“太目”になるので、太っていることを気にする人たちは、何とか体脂肪を減らそうと、減量に躍起になるようです。
しかし、脂肪細胞は単に過剰エネルギーの“貯蔵庫”であるだけでなく、いろいろな生理活性物質──総称してアディポサイトカインと呼ぶ──を分泌する“内分泌細胞”としての大切な役割を果たしていることは一般的にはあまり認識されていないようです。
体脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪がありますが、特に内臓脂肪が過多だと、成人病等の疾病を引き起こすので、健康のためには内臓脂肪を減らさなければならないということは一般的にはよく言われることです。
皮下脂肪からも多少は出ていますが、内臓脂肪からは次のような物質が大量に出て健康を害しているそうです。(注1)
・PAI(パイ)-1→血栓
・TNF-α→糖尿病
・アンジオンシノーゲン→高血圧
他に内臓脂肪が神経を圧迫して腰痛や脚の麻痺を引き起こすということも判っており、内臓脂肪は健康によくありません。
(補注:但し、内臓脂肪が全面的に悪者ではあるわけではありません。内臓脂肪から分泌されているアディポネクチンというホルモンはあくまでもそれが適量であれば、成人病を防いで健康維持に役立っていることが最近、分かって来ています。)
なお、女性は皮下脂肪が付きやすく、男性は内臓脂肪が付きやすい傾向にあります。前者は外見で判り易いのですが、後者は判りにくく、よく‘隠れ肥満’と言われています。
NHKテレビ『ためしてガッテン』(注2)で、(1)皮下脂肪型肥満の人と(2)内臓脂肪型肥満の人を探したところ案の定、前者は女性(153cm、90kg)で後者は男性でした。やはりその女性は明かに外見上も太鼓腹で肥満が判るのに対して、男性は体格ががっちりしているものの、外見上は肥満しているようには見えませんでした。
ところで、番組で調べたところ次のような数値が測定されました。
・PAI(パイ)-1 の量(標準値:50ng/ml)
(1)20ng/ml
(2)186ng/ml
すなわち測定の結果は、(1)皮下脂肪が多いその女性の場合、血栓を引き起こすPAI(パイ)-1の量は標準より少なかったのに対して、(2)内臓脂肪が多い男性の場合は非常に多量であることが判明したのです。
ところが…
・レプチンの量
(1)28.4ng/ml(女性の標準値:7.9ng/ml)
(2)9.5ng/ml(男性の標準値:3.1ng/ml)
両者とも標準値を超えて高いのですが、特に(1)の女性の方が目立っています。レプチンはいわば身体が出す‘食欲抑制ホルモン’なので、多ければ多い程痩せている筈なのに、彼女は大分肥満しています。これは一体どういう理由なのでしょうか?
(注1)
ただし別項において、脂肪吸引について述べたおり、適度な量の脂肪組織からは、同じ物質であっても、免疫系などに有益な働きをすることについて指摘しました。「OLヴィジュアル系の思想4」の(注6)参照。
(注2)
NHKテレビ『ためしてガッテン』「わかってスッキリ!体脂肪の新常識」(2001.1.10放送)参照。
(:2001.1.13初出に加筆)
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| 太るメカニズムとダイエットの基本──レプチン過多と適量化 |
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レプチンはすべての人が体内で発生させるホルモン物質で、いわば体が脳に「もう食べなくても良い!満腹だ!」ということを伝える手紙です。
普通に考えれば、この物質が多ければその人は痩せており、少なければ太っているということになるでしょう。しかし肥満している人のレプチンの量を測定してみると、通常よりも多いのが事実なのです。むしろレプチン過多であることが肥満の原因であるということが判っています。すなわち──
(1)食べ過ぎが続き、体に脂肪がどんどん蓄積されて行くと、脂肪細胞は「もういらない」とさらに多くのレプチンを出す。
(2)レプチンがたくさん出て来ると、なぜか視床下部は反応しない。
(3)視床下部が反応しないので、脂肪細胞はレプチンを出し続け、血液中にはレプチンがどんどん蓄積されて行く。
(4)それでも相変わらず、視床下部が食欲を抑制せず何も命令しないので、ブレーキが効かず、どんどん食べてしまう。
(5)脂肪細胞は仕方なく、やって来る中性脂肪を引き取る。その結果、どんどん太って行く。
(2)の段階のように、レプチンが過多になると視床下部が受け付けなくなるのは、喩えるならば、輪ゴムで一まとめにされた年賀状の束が郵便受の口からは入らないように、「食欲停止」というレプチンの過剰情報を視床下部が処理し切れなくなるからなのです。
摂食障害の過食症に陥るのも、概して、この生理学的理由によります。
このように無意識的・自動的に働くはずの視床下部に情報が伝わらなくなった時、肥満を抑止したいならば、大脳によって意識的にレプチンの量を減らす努力をして、一通ずつ視床下部に手紙が届くようにする必要があります。『ためしてガッテン』(注1)では「レプチン効果復活大作戦」として次の2つの指針を示しています。
(1)食事は腹八分目にする。
(2)毎日少しでも体を動かす。
(1)食事の意識的コントロールと(2)意識的に運動するという特別に変わったことを提案しているわけではありませんね。要するに、これが「ダイエットの基本」だと言えます。この基本を踏まえて番組では次のような思い付きを列記しています。
1)痩せた時の自分を想像する。
2)体重の変化をこまめに記録する。
3)小さいサイズの服を買う。
4)鏡を頻繁に見る。
5)好きな人にほめてもらう。
6)痩せると宣言する。
「格好よく痩せる」という特集をしている『FRAU』(注2)という雑誌にも医学博士・管理栄養士の本多京子氏が次のようなことを述べていましたので、引用しておきます。今は「食べないと痩せない」というのは常識になっていますが、「いい人生はいい食事から」というモットーで知的ダイエットを実践すべきであると説いています。
「食べるとは、人を良くすると書くように、代替のきかない基本です。無意識に食事をしているということは、何のために生きているのか、希薄だといえるのではないでしょうか」
「まず明日からやれば、あと一口、という発想をやめること。ダイエットするにしても、基本的に食べていけないものはない。ただ甘いものは重ねて食べない。単品物の食事は続けない。朝食をしっかり摂って夜食をやめる。すぐに食べられる食品の買いだしをしない。油や塩分を控える、などの工夫をすることで、ずいぶん違うはずです。最初からカロリー計算や栄養のバランスを完璧に考えることはできないのですから。」
「1日100kcal減らせれば、1年で3.5kg痩せる計算になり、ちょっとした工夫で生まれる差がどんなに大きいかわかると思います。」
(現実には、痩せれば痩せる程、基礎代謝率は下がり、消費カロリーは減るので、痩せにくくなります。)
「もっとはっきりした目標意識を持つための提案としては、食事日記をつけることがあります。自分が何を食べているのかを言語化することで、間食の多さ、三食のバランスの悪さがよくわかります。」
しかし、とにかく簡単そうに語っていますが、結構面倒臭そうですよね。それなら‘たかの友梨’も提案している、「一口30回咀嚼(そしゃく)── 一口約30回位、よく噛んでから食物を嚥下(えんげ──飲み込む)して胃に入れるような、ゆっくりした食事」(注3)を実践するだけでも良いのではないでしょうか?これだけでも、過食を防ぐ効果はあると思います。これだと何もエステに通うために高いお金を払う必要もありません。
(勿論、摂食障害の行為として一旦胃に入れた食物を嘔吐するのとは違い、咀嚼するも嚥下しないで食物を吐き出してしまう、いわゆる“チューイング”を勧めているのでは毛頭ありませんので、あしからず)
運動するという点では、同じ雑誌に、健康運動指導士・管理栄養士の殖田友子氏がこう述べています。
「スポーツをすることだけがここでいう運動ではありません。体力は人それぞれで、嗜好もちがうので、こうしなければいけない、という方法はありません。」「毎日の生活に組み入れられるもので、少しずつ、運動習慣をつけるようにすることです。」「ウォーキングは強度をコントロールしやすいうえに、無理な負担(ジョギングだと片足に体重の3倍の衝撃がかかる)もなく、脂肪を燃やしやすい運動です。」「ゴルフの打ちっぱなしにいくもよし。てきぱきと掃除をするもよし。週に3回は何かしら、脂肪が燃えるような運動をする習慣をつけることです。そうすれば3ヵ月ではっきりわかる効果が出ると思います。仕事による精神的なストレスも、運動による積極的疲労回復でずいぶん楽になるはずです。」
因みに若い女性の話だと、今流行っている「パラパラ」なんかは、良い有酸素運動になるそうですよ。楽しくなければ、何事も継続しませんものね…。
ものぐさな人はストレッチも良いですよ。起きた時に「伸び」をするように、両脚や両腕、身体の各部にギューっと力を入れて筋肉を緊張させたり、ふ〜っと緩めたり、合掌するように手の平を合わせて左右から力を入れたり緩めたり体をよじったりして胸筋や背筋を緊張・弛緩(しかん)させるだけでも良いのです。筋肉をつけることはそれだけ基礎代謝量を増やすことになりますからエネルギーを多く消費することが出来て、糖尿病の予防にもなります。これだと大きく動く必要がないのでテレビを見ている時でもいつでも出来ます。
『ためしてガッテン』で選び出された(1)皮下脂肪型肥満の女性と(2)内臓脂肪型の肥満の男性も意識的な食事と運動を心がけた結果、3週間後には次のように数値が減っていました。
(1)内臓脂肪20%減 皮下脂肪5%減 レプチン28.4ng/ml→15.1ng/ml
(2)内臓脂肪10%減 PAI−1 186ng/ml→27ng/ml
さて最後にまとめとして、肥満を防ぎ痩せたいのであれば、次のような過程を踏むべきだと番組は指摘しています。
レプチン過多
↓
太る
↓
意識的に痩せる
↓
レプチン適量化
↓
自然に痩せる
なお、レプチン適量化のためには、大脳(理性)を働かせて、意識的に生活をコントロールし、痩せようと番組では示唆していますが、しかし、頭でっかちになって、痩身することが第一と考えてしまい、色々な‘ダイエット’法を生半可に試みて、かえって、身体の素直な生理的反応を混乱させ、いわゆる摂食障害に陥ってしまわないように、注意しなければなりません。
何らかの個人的問題を、過食という一種の代償行為によって必死で解決しようとする、いわゆる過食症から自ら立ち直った体験を踏まえて、「身体の声」に耳を傾けよう、と説くジェニーン・ロスの次の言葉は、示唆的です。これまで具体的に説明して来た身体や脳の生理的現象を踏まえて、傾聴して下さい。
「身体は空腹になり、食べ物を与えられれば満たされます。これについては種も仕掛けもありません。自分が感じる感覚を入念にふるいにかけ、悲しみや孤独から区別して、空腹を感じるようになるまでにはしばらく時間がかかるかもしれませんが、しかし、これは、あなたが自分の空腹を認めることに慣れていないからであって、あなたの身体がそれを感じていないからではありませんし、たとえあなたが自分の空腹を認めてもいいと自分を許しているとしても、それであなたの空腹がどこまでも貪欲で飽くことを知らなくなるわけでもないのです。
いつ食べたらいいのか、教えてくれる人は誰もいません。これはあなたの身体が教えてくれることなのです。いつ食べたらいいのかを教えることのできる人など、もともとどこにもいないのです。つまりあなたの胃の状態をよく知っている人などいないのです。いつ食べたらいいのか自分に教えてくれる自分自身の身体の声に耳を傾けていさえすれば、『もう充分だよ』という、身体の声も聞き取れるようになるのです。」(注4)
「もう充分だよ」という、身体の声こそ、すなわち、今までご説明して来た「レプチン効果」のことだということは、もうおわかりですね。
(注1)
NHKテレビ『ためしてガッテン』「わかってスッキリ!体脂肪の新常識」(2001.1.10放送)
(注2)
『FRAU』(1993年1月号)
(注3)
「スローフードとしての粗食」
(注4)
ジェニーン・ロス『食べ過ぎることの意味──過食症からの解放』誠心書房、斎藤学監訳、佐藤美奈子訳、15頁。
(初出:2001.1.19)
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